宿泊産業 AIブームの功罪 ― 本質を見失わないために

ホテルマネジメント 「哀」

■ はじめに

近年、ホテル業界にもAIの波が押し寄せ、各社がこぞって最新ツールを導入しています。予約管理や画像生成、口コミ分析、SNS投稿支援など、技術の進化は目覚ましいものがあります。効率化や省人化を進める点では歓迎すべき流れです。
しかし、一部では「AIを使って何ができるか」を競い合うこと自体が目的化し、本来の目的である顧客満足の向上が二の次になっている懸念が見受けられます。

■ 小手先の技術に偏る危うさ

最近のホテル本部の会議や研修で耳にするのは、「AIで生成した魅力的な画像」「自動返信による口コミ対応」「SNSでの話題化」などが中心です。確かにこれらは目を引きやすく、社内アピールや短期的な成果は得やすいでしょう。
しかし、それらはあくまで補助的な手段であり、「実際に宿泊したお客様がどう感じるか」という核心には直接結びつきません。
口コミの★評価は上がっても、実際の現場サービスが追いついていなければ、逆効果となり、リピート率は伸びず、長期的なブランド価値も築けません。

■ 本質は“現場の体験価値”

ホテルの価値は、客室清掃の丁寧さ、スタッフの笑顔、地域らしさを活かした体験など、現場でのお客様との接点で決まります。
AIで可能なことは、顧客ニーズの傾向把握や業務効率化など、「現場がより良いサービスを提供できる環境づくり」です。
つまり、AIは裏方で光るべき道具であり、表舞台の主役はあくまで「人(ソフト)と施設(ハード)」です。

■ “AIを使うこと”を目的化しないための3つの提言

  1. KPIを「顧客満足度」に戻す
    AI導入の成果指標を「SNSフォロワー数」や「自動返信件数」ではなく、宿泊後アンケートの満足度や再来訪意向に設定する。
  2. 現場とのフィードバック循環を作る
    本部が得たAI分析結果は現場に渡すだけでなく、現場からの改善事例や顧客の生の声を逆フィードバックし、AIの活用法を磨く。
  3. “できる”より“役立つ”を重視
    AI導入検討の際は、「この機能はお客様の体験にどう影響するか?」という視点で判断する。話題性だけで導入しない。

■ おわりに

AIの進化は止まりません。だからこそホテル経営者は、“最新技術を使いこなしていること”を誇示するのではなく、“その技術でお客様の滞在がどれだけ豊かになったか”を誇るべきです。
テクノロジーはサービスを輝かせるための道具――その原点に立ち返ることこそ、真の競争力につながります。

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