防火管理の重要性
ホテル各現場における防火管理は、単なる法令遵守事項ではない。
それは企業の存続とブランド価値を守る、最重要の内部統制テーマである。私はこのテーマを「現場任せ」にしてはならないと強く感じている。防火管理は総務や施設の仕事でもなければ、消防対応の延長線でもない。経営のど真ん中にある課題だ。事故は、努力不足から起きるとは限らない。しかし「仕組み不足」からは必ず起きる。だからこそ、統制の設計・運用・改善を仕組みとして回し続けることが、経営の責任になる。
なぜ防火管理が重要なのか
ホテルという業態は、本質的に火災リスクと隣り合わせだ。不特定多数の宿泊者が滞在し、調理設備やボイラーを抱え、夜間は少人数体制になる。外国人宿泊者が多い施設では、避難誘導の難易度も上がる。つまり、リスクの構造そのものが高い。一度重大火災が起きれば、人命被害はもちろん、営業停止、保険料増加、ブランド毀損、株主や金融機関からの信頼低下へと連鎖する。さらに言えば、管理者の善管注意義務の問題にも発展しかねない。私は管理部門の立場として、「火災は現場の事故」ではなく「経営の失敗」になり得ることを常に意識している。防火管理は、安全管理とコンプライアンス、そしてガバナンスの交差点にあるテーマなのである。
防火管理の問題点
① 「防火管理者任命=終わり」問題
書類上は防火管理者が選任され、消防計画もファイルに綴じられている。しかしその後、計画は更新されず、異動時の引継ぎも曖昧なままになっているケースがある。これは統制設計があっても、統制運用が伴っていない状態だ。制度は存在するが、機能していない。内部統制で最も危険なのは、この「やっているつもり」である。
② 訓練の形式化
年に一度の避難訓練。整列して、報告して、写真を撮る。だが、本当に夜間想定で動けるのか。宿泊者がパニック状態でも誘導できるのか。訓練がイベント化すると、実効性は急速に落ちる。本来、訓練は安心するためではなく、不安を可視化するためにある。アルバイトスタッフにまで実際に火災が起こった際の対応を周知し動けるように日頃からの訓練が重要だ。体で憶える必用があるのだ。
③ 属人化
「彼が詳しいから大丈夫」。この一言ほど危険な言葉はない。特定の支配人や施設担当に知識が集中し、本部が実態を把握していない状態は、統制の欠如に等しい。内部統制の観点で言えば、モニタリング機能が働いていない。人に依存した安全は、異動や退職と同時に崩れる。
④ 本部と現場の温度差
現場は日々のオペレーションで手一杯だ。事故は「起きない前提」で動く。一方、本部は最悪の事態を想定する。この温度差が、設備更新の先送りや投資判断の遅れにつながる。リスクは、忙しさの陰で静かに積み上がる。私は、この温度差を埋めることこそ管理部門の役割だと考えている。
防火管理は経営課題
防火管理は「現場業務」ではなく「経営課題」である。だからこそ、経営層は三つの責任を負う。第一に、統制設計を明文化すること。全社共通マニュアルの整備、引継ぎチェックリスト、点検記録のクラウド化。属人性を排し、仕組みに落とす。第二に、統制運用を可視化すること。定期レビュー、内部監査への組み込み、KPI化。やっているかどうかを、感覚ではなく数値で把握する。第三に、モニタリングと改善を回すこと。ヒヤリハットの共有、消防指摘事項の横展開、設備更新の計画化。問題は隠すものではなく、共有するものである。ホテル経営における最大のリスクは、稼働率低下でも原価上昇でもない。「一発退場リスク」だ。火災はその象徴である。内部統制とは、問題が起きてから整えるものではない。問題が起きない状態を、組織として作り続ける営みだ。私は防火管理をコストではなく、企業の未来を守る投資だと考えている。過去のホテルでの悲惨な事故の事例を学習し同じ過ちを繰り返さないようにしないといけない。事故が起きない文化をつくること。それこそが、私たちのガバナンスの本質なのである。

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