こんなことはありませんか
多くの会社では、残業についてこんなルールを定めています。
・残業は原則「事前申請制」。やむを得ない場合のみ事後申請を認める
・現場責任者には、シフトを工夫して「残業をできる限り発生させない」よう通達する
ところが実際の現場では、次のような状況が起きることがあります。
現場責任者が朝から晩まで長時間勤務しているにもかかわらず、残業申請を出さない。
しかも、人手が足りている日でも同じように長時間働いている。会社としては「残業は認めていない」はずなのに、実態として長時間労働がある以上、
今回は宿泊業界では常識だった長時間労働に関して考えていきたい。
長時間労働の結果「残業代を支払わざるを得ない」状況になってしまい、人件費が膨らんでいる。
残業申請が機能しないのは単なる「申請忘れ」では片付けられない、根の深い問題です。
なぜ申請せずに長時間働くのか?
人手が足りているのに朝から晩まで働き続ける。この行動の裏には、いくつかの心理が考えられます。
1. 「時間」そのもので会社にアピールしている
売上や成果といった数字ではなく、「これだけ長い時間、現場にいる」という事実そのものを、会社への忠誠心や頑張りの証としてアピールしている可能性があります。特に、成果が見えにくい業種や、上司が「長時間いる人=頑張っている人」と評価しがちな組織文化がある場合、この傾向は強まります。
2. 「残業代目当てではない」という姿勢を示したい
残業申請をしないこと自体が、「自分はお金のために残業しているのではない」というメッセージになっている可能性があります。特に真面目で責任感の強い管理職ほど、「残業代を請求する人」というレッテルを避けたい、あるいは部下の手前、自分だけ残業代を受け取ることに気が引ける、といった心理が働くことがあります。
一見美徳のようにも見えますが、これは労務管理上は非常に危険なサインです。本人が望んでいなくても、実態として長時間労働が発生しているという事実は変わらないからです。
3. 過去の「みなし残業」導入の経緯
以前、残業代が実質的に生活給になってしまっていた現場責任者がいたため、みなし残業(固定残業代)制度を導入した、とのことです。この経緯は重要な教訓を含んでいます。
・残業代への依存を断つためにみなし残業を導入した
・しかし今度は逆に「みなし残業を超えても残業代を申請しない」ことが評価につながる
という誤解が生まれてしまった。
つまり、制度や組織文化が、極端から極端へと振れてしまっている可能性があります。
どちらの状態も「実際の労働時間」と「賃金」が正しく連動していないという点では
同じ問題を抱えています。
会社にとってのリスク
「残業を認めていない」という建前と、「実態として長時間労働がある」という現実がずれている状態は、会社にとって次のようなリスクを生みます。
・実労働時間に基づき、結果的に残業代の支払い義務が発生する(申請の有無に関わらず)
・長時間労働が常態化することによる、本人の健康リスク・労災リスク
・「アピールのための残業」が他の従業員にも伝播し、残業が不要にも関わらず
組織全体の長時間労働体質につながる。
特に見落とされがちなのが、健康リスクです。人手が足りているのに毎日長時間労働を続けているというのは、本人が気づかないうちに疲労が蓄積し、体調不良やメンタル不調につながる恐れがあります。
不要な長時間労働をなくすには
会社としては「働いた分の残業代はきちんとつける。ただし、シフトをコントロールしてできるだけ残業させたくない」という方針をお持ちとのことです。この方針を実現するために、以下のような対策が考えられます。
1. まず「なぜ残るのか」を本人と対話する
数字やルールの前に、本人がなぜ人手が足りている日でも長時間残っているのか、率直に話を聞くことが出発点になります。頑張りをアピールしたい気持ちがあるのだとしたら、「時間」ではなく別の形(成果、改善提案、部下の育成など)で評価される仕組みがあることを伝える必要があります。
2. 「早く帰ること」を正しく評価する
長時間いることが評価される空気がある限り、この状況は変わりません。管理職の評価基準に、労働時間の適正管理そのものを組み込みます。例えば「部下も自分も定時で帰れる体制を作れているか」を評価項目にするなど、長時間労働を前提としない評価軸を明確にします。
3. 客観的な労働時間の見える化
自己申告に頼らず、入退室記録やPCのログなど客観的なデータで実労働時間を把握します。申請の有無にかかわらず、実態が見えるようにすることで、「申請しないから問題ない」という誤解を会社側からもなくします。
4. シフト・業務量そのものを見直す
人手が足りている日にまで長時間労働が発生しているなら、それは人員配置の問題というより、業務の割り振り方や本人の仕事の抱え方に原因がある可能性があります。業務を可視化し、本当にその時間が必要なのかを棚卸しします。
5. みなし残業制度の運用を見直す
みなし残業を導入している場合、その制度が「残業代をもらわないことが偉い」という空気を生んでいないか、改めて点検します。みなし時間を超えた分は必ず追加支給し、実労働時間と賃金が連動する原則を組織全体に周知します。
6. 経営層からの明確なメッセージ
「長時間いることは評価しない。定時で成果を出すことを評価する」という方針を、経営層が繰り返し発信することが重要です。現場責任者が「早く帰ってはいけない」と誤解している場合、トップからのメッセージがその誤解を解く一番の近道になります。
まとめ
人手が足りているにもかかわらず長時間労働を続ける背景には、「時間そのものでのアピール」や「残業代目当てではないという姿勢の表明」といった、必ずしもお金には結びつかない心理が隠れていることがあります。
しかし、動機がどうであれ、実態として長時間労働がある以上、会社には結果的に残業代の支払い義務や健康管理上の責任が生じます。「認めていないから発生していない」という建前ではなく、実態を見える化し、評価の軸を変え、業務量そのものを見直すこと。この3つを組み合わせることで、初めて不要な長時間労働を根本から減らしていくことができます。

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